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タブリンの窓

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タブリンの木製恐竜骨格模型 制作記録 & 戯れ言 http://taburin.jimdo.com/ taburinあっとkfx.biglobe.ne.jp

スピノサウルス制作まとめ

 スピノサウルス制作まとめ_e0064457_2139491.jpg
今回は、スピノサウルス制作を振り返っての話です。
 ちょっと長いし、下手な文章なのですみません。

 スピノサウルスは謎の多い恐竜です。
 謎が多い、それは、発見されている部分があまりにも少ない(歯だけはいくらでも見つかるようですが)。さらに、1912年にエジプトで発見されて、1915年にドイツのErnst Stromerによって記載されたSpinosaurus aegyptiacusの模式標本は論文を残すのみで、化石の方は1944年に連合国軍の空爆によって灰燼と帰したからです。
 その後、やや小型の近縁の恐竜=Baryonyxバリオニクス、Illitatorイリテーター、Suchomimusスコミムスなどが発見されていますが、やっと2006年になって、新たな論文の発表がありました。
 これには、スピノサウルスが最も大きな獣脚類であることが確認されたと述べられています。そのサイズは17m。シカゴにいる(ある)TyrannosaurusrexのSueスーは12.8m、アルゼンチンで発見されたGignotosaurus carolinii ギガノトサウルスは13.7mですから、長さでははるかに勝っているわけです。また、この新たな標本は模式標本よりも大きいようです。(模式標本では胸腰椎の上部と椎体が癒合していなかったので幼体ではないかといわれています)

 これはイタリアの研究家Cristiano Dal Sasso による論文
NEW INFORMATION ON THE SKULL OF THE ENIGMATIC THEROPOD SPINOSAURUS, WITH REMARKS ON ITS SIZE AND AFFINITIES
CRISTIANO DAL SASSO , SIMONE MAGANUCO,  ERIC BUFFETAUT, and MARCO A. MENDEZ
Journal of Vertebrate Paleontology 25(4):888–896, December 2005
に記載されたMSNM V4047をもとにしての推定サイズです。MSNM V4047はmaxilla上顎premaxilla前顎からnasal鼻骨にかけての部分化石ですが、化石自体は1975年にモロッコで発見され、2002年まではイタリアの個人コレクター所蔵だったそうです。 
 この部位の長さは99cmで、crocodileワニのような長い吻部を持った様子がうかがえ、これから推定する頭骨長は1.75m、そして全長が17mに達するとのことでした。

 また、この論文にはUCPC-2という部位についても書かれています。同じくモロッコで、シカゴ大学のDr. Sereno博士らによって1996年に発見された部位ですが、スピノサウルスのnasal鼻の上のcrest鶏冠の一部であると同定されたのは2002年でした。よくこれでスピノサウルスの鶏冠だと同定できたなぁと思うほどの小さい部分です。(映画Jurassic ParkⅢでに登場したスピノサウルスには鶏冠は無く、lacrimal涙骨(目の前上の部分)がAllosaurusアロサウルスのように高く(かっこよく)なっていました。またneural spines背中の帆の並びや全身のバランスにも問題がありましたね。)

 この文献から、他の近縁種とは多少異なるスピノサウルスの頭骨像が浮かんできました。鼻孔はSuchomimusスコミムスなどより遙かに後ろの方についていますし、歯の数も少ないのです。


 一方、背中の帆と下顎については、
NEW INFORMATION REGARDING THE HOLOTYPE OF SPINOSAURUS AEGYPTIACUS STROMER, 1915
JOSHUA B. SMITH,  MATTHEW C. LAMANNA,  HELMUT MAYR,  AND KENNETH J. LACOVARA
J. Paleont., 80(2), 2006, pp. 400–406
を参考にしました。

 しかし、これら文献を参考にしても、全体のほんのわずかにしかなりません。ネットにあふれている画像の多くはあまりにも空想画すぎて、ほとんど参考になりません。仕方ないといえば仕方ないのですが。
 では、どうやって全体を作っていったのか…。
 勿論、全身骨格が見つかっていない、あるいは正式に発表されていない現時点、正確な姿を描くことは不可能です。そこで、分かっているわずかな事実と、その他の近縁種などを参考にしながら、現時点で最も近いと思われる姿を描いていきました。

 skull頭骨は175mm。頭骨の後半部分はほとんど推定です。ネットで見られる頭骨の模型とかは、orbital眼窩がかなり高い位置にあり、その下のjugal頬骨の幅が高すぎるように思えました。このような例は、私の知る限り他の獣脚類に見られません。そこで、眼窩もしっかりと縦長にしました。
 cervical vertebrae頸椎は、模式標本の図面をもとに一連の10個がゆるやかな逆S字を描きます。
 dorsal vertebrae胸腰椎は、sail帆=neural spines神経棘の並びを検討しながら13個。頚まではたいして高くない神経棘が、胸腰椎になると急に高さを増してきます。そして5個のsacral vertebrae仙椎に達して最高の高さになります。
 腰の部分=寛骨はその他の近縁種を参考に。 
 illium腸骨の幅や長さ、pubis恥骨やischium座骨の大きさや角度は、femur大腿部の大きさをはじめ脚部全体に関係します。腰の幅からしっかりとした大腿部が想像されます。また膝下(tibia脛骨やfibula腓骨)は大腿骨とほぼ同じ長さにしました。今の鷺のように、長い脚で水の中に立って魚を獲る姿が浮かびます。
 tail尾は、かなり重さがある前半身のカウンターとして、結構長く、また上下幅があってほどよい肉付きというイメージです。
 普通、獣脚類のcaudal vertebrae尾椎は40~50個と思われました。結局、椎間がはっきりしませんでしたが、全長は152cmになってしまいました。推定170よりやや短い…。
 前肢はスコミムスやバリオニクスに見られる前肢の復元と、それに似たAcrocanthosaurusアクロカントサウルスの論文にある前肢を参考にしました。かなり骨太の力強いhumerus上腕で三角胸筋稜は大きいです。手の先には巨大なツメがついています。

 こうしてキメラながら、現時点で「これだ!」って言えるようなスピノサウルスができあがりました。

 新たなスピノサウルス発見の情報が出てくるかも知れません。でも、大いにそれを歓迎します。それをもとに、また作るでしょう。
by carnotaurin | 2007-04-03 21:40 | 恐竜

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